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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)303号 判決

東京都府中市寿町二丁目一五番地

原告

綾部武一

右訴訟代理人弁護士

岩崎公

東京都府中市分梅町一丁目三一番地

被告

武蔵府中税務署長

右指定代理人

菊地健治

三宅康夫

池田元七

佐藤幸一

西尾房時

主文

1  被告が昭和五一年一月三一日付でなした原告の昭和四八年分所得税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定処分のうち、総所得金額四、六六五、八六七円、分離課税にかかる土地等の事業所得金額一一、六三三、六四三円、所得税額九、六三四、四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税二八二、三〇〇円、重加算税一二三、九〇〇円をそれぞれ超える部分を取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年一月三一日付でなした原告の昭和四八年分所得税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は昭和四八年分の所得税につき昭和四九年三月一四日付で左記のとおり確定申告をしたところ、被告は昭和五一年一月三一日付で左記のとおり更正処分をし、かつ同日付で過少申告加算税三七六、六〇〇円、重加算税四〇三、五〇〇円の賦課決定処分をした(以下「本件処分」という。)。

〈省略〉

なお、右表中の〈2〉は、租税特別措置法(昭和四八年法律第一六号により改正された後のもの。以下「特措法」という。)第二八条の六第一項の規定による所得であり、〈3〉は同法第三一条第一項の規定による所得である。

2  原告は本件処分に対し、昭和五一年四月二日付で異議の申立てをしたが、同年六月二六日付で棄却の決定があったので、更に昭和五一年七月二六日付で審査請求をしたところ、昭和五二年五月一四日付で棄却の裁決がなされた。

3  しかしながら本件処分は所得を過大に認定した違法があるので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2の事実は認める。

三  被告の主張

本件処分の課税根拠は次のとおりである。

1  原告は不動産取引業を営む者であるが、不動産取引業者が昭和四四年一月一日以後に取得した土地を譲渡したことに基因する事業所得については他の所得から分離して所得税が課税されることになっており(特措法第二八条の六第一項)、右事業所得の金額は、土地譲渡による収入金額から、(イ)土地の取得費並びに設備費及び改良費の合計額、(ロ)その年中に支払うべき負債利子のうち該土地の譲渡にかかる部分の金額及び(ハ)該土地の譲渡のために要した販売費及び一般管理費を控除した額である(特措法施行令第一九条第三項)。そして右特措法の規定が昭和四八年四月二一日から施行された関係上、原告の昭和四八年中の土地譲渡に基因する事業所得は分離課税にかかる所得(同年四月二一日以降に取得し、かつ譲渡された分)と、総合課税にかかる所得(右以外の分)とに区分される(昭和四八年法律第一六号附則第六条第一号)。

2  原告は昭和四八年中に別紙物件目録(1)ないし(10)記載の土地(以下「本件(1)ないし(10)の土地」という。)を譲渡したが、右譲渡に基因する事業所得を総合課税分と分離課税分に区分し、原告の申告額と被告のした更正処分の額とを対比して示せば別表一記載のとおりである。

右別表一の売上金額と仕入金額の内訳は別表二及び三記載のとおりであり、また別表一記載の経費のうち、登記手数料中の一九四、九五〇円及び借入金利子中の一、五一六、五九八円は、本件事業所得の必要経費とは認められないので申告額から除外した。なお経費のうち、仲介手数料額及び借入金利子以外の費目については、支出を要した当該物件を明確に特定できないので、差益金額の割合に応じ、総合課税分と分離課税分に按分して更正したものである。

そして原告の昭和四八年中の生命保険料控除、扶養控除及び基礎控除の合算額は五五五、〇〇〇円であり、これを総所得金額から控除したうえ、以上の所得額に所定の税率を適用して得た所得税額は請求原因1記載のとおりである。

3  原告の納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちには国税通則法第六五条第二項の正当な理由があると認められるものはないから、同条第一項により過少申告加算税を課すべき場合にあたり、しかも原告は別表二及び三記載の申告額どおりの売上金額を備付けの帳簿に記帳し、これに基づいて申告書を提出していた(但し、本件(7)の土地については売上げを記帳せず、申告から除外した。)のであるから、原告は別表一の売上げのうち更正額と申告額との差額につき隠ぺいし、又は仮装したところに基づき確定申告したものであり、重加算税を課すべき場合にも該当する。そして隠ぺい又は仮装したことによる所得額は、総合課税分については売上金額の増差額一八、五二七、七〇〇円から仕入金額の増差額を控除した一、六〇一、九三八円と、また分離課税分については売上金額の増差額二四、〇六〇、〇〇〇円から仕入金額の増差額を控除した(経費の減差額は隠ぺい又は仮装したものとはいえないから、重加算税賦課の対象とはしない。)六八二、八〇〇円とそれぞれすべきところ、これに基づく過少申告加算税及び重加算税の基礎となる税額の算定過程は別表四記載のとおりであり、同表〈28〉の額に所定の税率を適用して得た各加算税の額は請求原因1記載のとおりである。

4  なお原告は後記のとおり本件(3)の土地を小磯忠次から仕入れた金額が六〇、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するところ、被告は本訴においてこれを認める。

四、被告の主張に対する原告の認否及び主張

被告主張の課税根拠1ないし3の事実は、別表二記載の本件(2)及び(3)の土地の仕入金額の点を除き、すべて認める。

本件(2)及び(3)の土地の仕入金額はそれぞれ四二、〇〇〇、〇〇〇円及び六〇、〇〇〇、〇〇〇円である。すなわち原告は昭和四八年二月一六日訴外亡斉藤一郎から右(2)の土地を代金四二、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、同日額面二一、〇〇〇、〇〇〇円の小切手二枚を同人に交付してこれを支払い、また右(3)の土地については同年三月五日訴外小磯忠次から代金六〇、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、同日額面五〇、四九〇、〇〇〇円の小切手一枚及び現金九、五一〇、〇〇〇円でこれを支払った。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし三を提出(但し、第三ないし第六号証、第一〇、一四号証以外はすべて写しとして)。

2  証人成田仁平治、同小磯忠次、同品川禅の各証言並びに原告本人尋問の結果を採用。

3  乙第九号証のうち官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。第一〇及び一四号証の成立は不知。第一三号証は、原本の存在は認めるが、その成立は不知。その余の乙号各証の成立(但し、第五号証、第七、八号証の各一、二、第一一号証については原本の存在を含む)はすべて認める。

二、被告

1  乙第一ないし第六号証、第七、八号証の各一、二、第九ないし第一四号証を提出(但し、第五号証、第七、八号証の各一、二、第一一号証、第一三号証は写しとして)。

なお、第一三号証は偽造文書である。

2  甲第一〇ないし第一三号証の成立(但し、第一一ないし第一三号証については原本の存在を含め)不知。その余の甲号各証の成立(但し、第一、二号証、第七ないし第九号証、第一五号証の一ないし三は原本の存在を含めて)はすべて認める。

理由

一、請求原因1、2の事実及び本件処分の課税根拠として被告が主張する事実は、本件(2)及び(3)の土地の仕入金額の点を除き当事者間に争いがなく、また右(3)の土地の仕入金額については、被告が本件処分においてこれを五五、〇八〇、〇〇〇円としていたところ、これが六〇、〇〇〇、〇〇〇円であることについては当事者間に争いがない。

二、従って本件の争点は右(2)の土地の仕入金額の点のみであり、被告はこれを三〇、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するので判断するに、成立に争いのない甲第三、第四、第六号証、乙第一号証、原本の存在及び成立ともに争いのない甲第七号証、第一五号証の一ないし三、乙第五号証、第七及び八号証の各一、二、証人品川禅の証言により真正に成立したものと認められる乙第九及び第一四号証(但し、乙第九号証中、官署作成部分の成立は争いがない。)並びに証人成田仁平治の証言及び原告本人尋問の結果中後記措信しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は昭和四七年九月二〇日訴外株式会社間組(以下「間組」という。)との間で、原告が八王子市字大塚二号九四番山林外七六筆の土地合計四〇、三〇二・四九坪を第三者から取得し、これを取りまとめて間組に対し合計二、四七五、二七七、七〇〇円で売渡すこと、原告は同年一〇月二〇日までに右のうち一七、二九五・六六坪の買収を完了し、間組は坪単価六五、〇〇〇円として計算した代金を支払うこと及び残りの土地については原告は同年一二月二〇日までに買収を完了するものとし、間組は内二九三五坪については坪単価五〇、〇〇〇円、その余は六〇、〇〇〇円として計算した代金を支払うこと、等を内容とする契約を締結した。

2  本件(2)の土地は右契約により原告が買収して間組に売渡すことを約した土地のうちの一筆であって、その売買交渉は昭和四八年二月ころ所有者斉藤一郎との間で具体的に進展していたところ、原告はそのころ間組の担当課長永田稔に対し、(2)の土地は右約定の額を上廻る坪単価七〇、〇〇〇円でなければ斉藤一郎が売渡しに応じないので、原告と間組との間の売買代金額も坪単価七〇、〇〇〇円合計四二、〇〇〇、〇〇〇円に改めて貰いたい旨折衝し、同人もやむなくこれを承諾した。その結果同年二月一六日間組から第一勧業銀行多摩桜ケ丘支店の原告の普通預金口座に(2)土地の代金四二、〇〇〇、〇〇〇円が振り込まれた。

3  原告は直ちに同日の午前中、同支店から額面二一、〇〇〇、〇〇〇円、同支店長振出にかかる小切手二枚の交付を受け、富士銀行多摩支店に赴き、同支店行員品川禅に右小切手二枚を渡したうえ、(一)富士銀行多摩支店振出の額面三〇、〇〇〇、〇〇〇円及び一、二二五、〇〇〇円の二枚の小切手に組替えること、(二)同支店の原告の普通預金口座に四、七七五、〇〇〇円を入金すること及び(三)残金六、〇〇〇、〇〇〇円は原告に現金で支払うこと、を依頼し、同人から右の趣旨どおりの処理をして貰い、右(一)の小切手二枚及び(三)の現金六、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けた。そうして、同日の昼ごろ斉藤一郎が原告と共に同支店を訪れ、新規に斉藤一郎名義の普通預金口座を開設したうえ、右(一)の額面三〇、〇〇〇、〇〇〇円の小切手一枚を同支店行員に渡し、同額を同口座に入金した上、そのうち五、五〇〇、〇〇〇円を定期預金に入れる手続をとった。なお、前記一、二二五、〇〇〇円の小切手については、その後萩原俊三の裏書の下に支払われている。

4  斉藤一郎は右同日原告との間で右(2)の土地の売買契約書を取り交わしたが、右契約書には(2)の土地の代金は三〇、〇〇〇、〇〇〇円とし、斉藤は同日右代金を受領した旨が記載されており、また原告が記帳している総勘定元帳の仕入の項に、右(2)の土地は坪単価五〇、〇〇〇円、金額三〇、〇〇〇、〇〇〇円と記載されている。

以上のとおり認められ、これらの事実を総合すれば、本件(2)の土地の仕入金額は三〇、〇〇〇、〇〇〇円であったと認めるのが相当である。原告は(2)の土地の代金は四二、〇〇〇、〇〇〇円であり、昭和四八年二月一六日に額面二一、〇〇〇、〇〇〇円の小切手二枚を斉藤一郎に交付してこれを支払った旨主張し、証人成田仁平治及び原告本人の供述中には右主張に添う部分があり、なお原告は、原告の普通預金口座に入金された前記四、七五五、〇〇〇円及び一、二二五、〇〇〇円の小切手について、その資金は同年一月一〇日冨岡清己から土地売買代金として交付を受けた額面六、〇〇〇、〇〇〇円の小切手により入金ないし取組みがされたものであると説明している。しかしながら、一月一〇日に交付を受けた小切手を一か月間以上も放置しておいて二月一六日に始めて銀行に持ち込んだというのも不自然であるし(前記甲第四号証によれば、その間原告の同銀行預金口座から何回も払戻しがされていることが認められる。)、成立に争いのない乙第一二号証によれば、本件処分に対する異議申立に際しては、原告は、額面合計四二、〇〇〇、〇〇〇円の小切手二枚につき、前記3認定のような小切手の組替え、原告の普通預金口座への入金及び現金支払いがされたことを前提とした上で、右現金六、〇〇〇、〇〇〇円は原告ではなく斉藤一郎に支払われたものであり、同人からの買入代金額は三六、〇〇〇、〇〇〇円である旨主張していることが認められるのであり、このこととも矛盾する。要するに証人成田仁平治及び原告本人の供述は前後矛盾、衝突する点や不合理なところが少なからずあり、前記認定に供した各証拠と対比するときは、とうてい採用に値しない(なお、原告が富士銀行多摩支店から払戻しを受けた現金六、〇〇〇、〇〇〇円がさらに右斉藤に渡ったとの可能性もないわけではないが、これを認めるに足りる確たる証拠もないので、そのような事実を肯認するわけにはいかない。)。以上のとおりであると認められ、他にこの認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみると本件(2)の土地の仕入金額を三〇、〇〇〇、〇〇〇円としてした本件処分には何ら違法はない。

三  以上のとおりであるから、本件処分は本件(3)の土地の仕入金額が六〇、〇〇〇、〇〇〇円であるのにこれを五五、〇八〇、〇〇〇円とし、その結果所得金額をその差額四、九二〇、〇〇〇円過大に認定した点において違法であるといわざるを得ないが、その余の点には何らの違法もない。ところで右(3)の土地の仕入金額を四、九二〇、〇〇〇円増加させるべきであるとする結果、総合課税分の差益金の額は右同額を減じた二九、六八七、七〇〇円とすべきことになるが、本件処分における所得の認定にあたっては、仲介手数料額及び借入金利子を除く経費が総合課税分と分離課税分の各差益金の割合に応じて按分されている(このような計算方法をとっていることについては前記のとおり当事者間に争いがない。)ので、経費中の右の各費目の額をそれぞれの差益金額二九、六八七、七〇〇円と二〇、六六二、八〇〇円との割合に応じて按分し、それぞれの経費を算出し、これによって各所得額を求めると別表五記載のとおり総合課税にかかる総所得金額は四、六六五、八六七円、分離課税にかかる事業所得金額は一一、六三三、六四三円となり、これらに対する税額を算出すると別表六記載のとおり(なお同表〈9〉欄の税額の算出根拠は別表七のとおりである。)それぞれ八〇五、〇〇〇円、六、一二六、六一五円であり、これに当事者間に争いのない分離長期譲渡所得に対する税額を加えると、原告が納付すべき所得税額は、九、六三四、四〇〇円となる。また以上の事実関係を基礎として重加算税及び過少申告加算税の基礎となる税額を計算すると別表六記載のとおりとなり、同表〈28〉欄の金額に国税通則法第六八条第一項、第六五条第一項所定の割合を乗ずると、重加算税の額は一二三、九〇〇円、過少申告加算税の額は二八二、三〇〇円とすべきこととなる。してみると本件処分のうち右の各所得金額及び税額を超える部分は違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は右の限度において理由があるから認容するが、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 田中信義)

物件目録

(1) 八王子市東中野五号三〇四 山林 二八八坪

(2) 同所 四号二三四―三 同 六〇〇坪

(3) 同 市大塚 六号二九八外一筆 同 九一八坪

(4) 同所 五号二七二―一 同 七四一坪

(5) 同所 六号二九六―一外一筆 同外 六八五坪

(6) 南津留郡河口湖町河口字山宮二、五三八―一外一筆 山林 二、二〇七坪

(7) 八王子市大塚 四号一九五―二 山林 三〇〇坪

(8) 同 市東中野五号二八〇外七筆 田畑 一、三五三坪

(9) 郡山市熱海町安子島七―一 山林一三、八四七m2

(10) 八王子市大塚 六号三〇四―一 原野 一五六坪

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

〈省略〉

別表四

加算税の基礎となる税額の計算書

〈省略〉

〈省略〉

別表五

〈省略〉

別表六

加算税の基礎となる税額の計算書

〈省略〉

〈省略〉

別表七

〈省略〉

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